株式会社しらゆりケア
代表取締役 浜中 俊哉氏
取材:2025年9月5日

「欲しい」は必ず実現させる。自社施設×DXで描く、新しい介護のカタチ
お金はないけど、3.5億円の施設を建てたい!
一 創業から数年で、自社施設を建設されています。これは大きな決断だったのではないでしょうか?
最初は小さな事務所でスタートしたのですが、人が増えて50平米の事務所に20人がひしめき合う状態になってしまったんです。移転先を探しても見つからず、「じゃあ、建てるしかない」と。
どうせ建てるなら、女性が多い職場なので、介護施設の「薄暗い」というイメージを覆すような、パッと見て「介護の会社じゃない」と思えるくらいおしゃれなものにしたかった。
デザイナーは入れず、ネットで探した数万枚の写真からイメージを固めて、全部自分で設計しました。

一 3.5億円の資金調達は簡単ではなかったと思います。どのように実現されたのですか?
銀行に相談したら、もちろん最初は「できません」と(笑)。でも、そこで引き下がる性格じゃない。
知識がないからこそ、ストレートに聞くんです。「なぜできないんですか?」「じゃあ、こうすればできますか?」と。
制度を調べ上げて「この保証を使えば可能では?」と提案し、「前例がありません」と言われれば「じゃあ、うちを第一号にしてください」と交渉しました。
「満額じゃないと足りません」と伝え続け、なんとか全額を調達できた。欲しいと思ったら、どうすれば実現できるかしか考えないんです。
デジタル導入のきっかけはいつも「現場の困りごと」から
一 DXにも早くから取り組まれていますが、最初のきっかけは何だったのでしょうか?
情報共有です。訪問看護は、朝起きた出来事を夕方共有していては遅すぎる。特にトラブルは致命的です。
当時は個人のLINEでグループを作っていましたが、セキュリティ面で問題があり、業務用のツールを探し始めました。
それがきっかけで、LINE WORKSが実証実験を始める最初の300社に選ばれ、介護事業者の代表として意見を言いながら導入を進めていきました。
一 特に、全室に「見守りシステム」を導入されたのは大きな投資だったと思います。どのような課題があったのですか?
看取りの質を上げたかったんです。
私たちは終末期の方に寄り添う仕事でありながら、夜間の巡回時に「朝起きたら亡くなっていた」というケースがどうしても起きてしまう。それが本当に辛くて。

ご家族に最期の瞬間に立ち会っていただける確率を少しでも上げたかった。
「見守りシステム」は室内のセンサーで心拍や呼吸、体の動きなどを把握できるんです。
当時はまだ非常に高価で、1400万円ほどしましたが、補助金やベンチャーファンドも活用して導入を決めました。これも現場の「なんとかしたい」という切実な思いがきっかけですね。
DXは「どこでもドア」。経営者はのび太でOK
一 社長ご自身は、もともとデジタルに詳しかったのですか?
いえいえ、むしろ結構苦手な方でしたし、今でも専門的な知識があるわけではありません。
私にとってDXは、ドラえもんの「どこでもドア」のようなもの。使いこなせば、今まで絶対に行けなかった世界に行けるようになるんです。
経営者はドラえもんみたいに技術に詳しい必要はない。むしろ「こんなこといいな、できたらいいな」と夢を描く「のび太」でいいんです。技術のことは、詳しい人に教えてもらえばいいんですから。
人事部が司令塔 ーAI×データで「育つ」組織へ
「人は育てない」逆説的なアプローチ
一 会社の成長には「人」が不可欠だと思いますが、人材育成についてはどのようにお考えですか?
うちは「人育てをしない」と決めているんです。より正確に言うと、採用の失敗を教育で埋めることはしない、という方針です。
その代わり、社員が自ら成長できる「学びの環境」と「育ちの環境」を徹底的に整えます。
もちろん入社後のサポートはしますが、それ以上に、ポテンシャルの高い人材を採用し、その人たちが自ら成長できる環境を整えることに全力を注いでいます。
一 具体的には、どのような環境を整えているのでしょうか?
まず、会社の司令塔として人事部を立ち上げ、HR部門にとにかくお金をかけると決めました。YouTubeなどを活用して企業のブランド価値を高め、採用の質そのものを上げていく。
さらに、昇進や抜擢の際には、社内の評価だけでなく「スカウター」という外部の性格診断ツールも活用します。
データに基づいて客観的にその人のポテンシャルを判断し、適切なポジションに配置する。そうやって、社員が自らの能力を最大限に発揮し、勝手に「育っていく」環境を科学的に設計しているんです。

「感情」ではなく「勘定」で評価する
一 人事評価について、独自の仕組みがあると伺いました。
はい、誰が見ても公平で納得感のある評価を目指しています。その一つが「ピアボーナス制度」です。
社員同士が日々の業務の中で感謝した相手に、名前を挙げて投票する。
誰が一番周りから感謝されているかがランキングで可視化されるので、現場で口だけで文句を言っているような人は、絶対に名前が挙がってこないんです。
一 人事評価におけるAIの活用について、詳しく教えていただけますか?
評価者によって評価の甘い・辛いといったバラつきが必ず出ますよね。そのズレをなくすため、評価データは最終的にすべてAIに分析させて調整をかけています。
そうすると「評価者の評価」まで出てくる。あまりにひどい評価をしている管理職は、評価者としての評価も下がる。
こうすることで、個人の「感情」ではなく、データという客観的な「勘定」で評価できる仕組みを構築しています。
「育つ」組織の心臓部:人事部が成長のエンジンになる理由
一 なぜそこまで人事部の役割を重要視されているのでしょうか?
会社のステージが上がっていくと、どうしても昔のやり方から変われない人が出てきます。
それは個人の問題だけでなく、会社としての仕組みの問題でもある。
だからこそ、人事部が中心となって、会社の成長に合わせて組織の仕組み自体を常にアップデートし続ける必要があるんです。
人事部が会社の心臓部となり、採用から評価、環境整備まで、すべてのサイクルをデータに基づいて回していく。それが結果的に、会社全体の成長のエンジンになると信じています。
次なるステージ ー「社会資源」となる未来へ
社名変更に込めた「ゴーイングコンサーン」への決意
一 創業から10年という節目を迎え、会社は今、大きな変革期にあるそうですね。
はい。これまでは良くも悪くも、自分の好きな絵を描くように、即断即決の「剛腕経営」でやってきました。
しかし10年経って、多くの社員やステークホルダーに応援してもらっていることに改めて気づき、責任を痛感したんです。
だからこそ、これからは自分のやりたいようにやるのではなく、「ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)」を主軸に据えた経営をしていきたい。
その決意の表れとして、2025年11月に社名を「株式会社しらゆりケア」へ変更し、翌年にはホールディングス化する予定です。
永続的な発展を誓い、目指すは東京プロマーケット上場!
一 上場も視野に入れていると伺いました。
自分のモチベーションを上げるためにも、東京プロマーケットへの上場は必要不可欠だと感じています。上場すれば内部統制など厳しいルールも増えますが、「会社が永続的に発展できる」のであれば、それが良い選択だと考えています。
会社をパブリックな、みんなのものにしていく。そして、この会社が「社会資源」として、地域に必要とされ続ける存在になるのが私の目標です。
DXで東南アジアへー外国人スタッフが母国で輝く未来
一 今後の事業展開について、海外も見据えているのでしょうか?
はい、保険外事業の柱として、東南アジアビジネスを加速させていきます。
現在、ベトナムやミャンマーなど、多くの外国人スタッフが活躍してくれていますが、彼らが将来自分の国へ帰った時に、マネージャーとして輝けるようなビジネスモデルをベトナムで準備しています。

一 海外展開でもDXは鍵になりますか?
もちろんです。DXは「どこでもドア」のようなもの。DXを使いこなせば、私たちのような地方の会社でも、今まで行けなかった世界に挑戦できます。
技術革新は怖くない。私たち地方の企業こそ、DXを翼にして、今まで見えなかった世界へ飛び出していけるんです。



会社情報
| 会社名 | 株式会社 しらゆりケア |
| 所在地 | 三重県四日市市日永西2-9-11 |
| 業種 | 専門サービス業(その他の専門サービス業) |
| サービス内容 | ナーシングホーム 訪問看護ステーション 訪問介護 生活支援サービス 居宅介護支援事業所 神経リハビリセンター 障がい者グループホーム 訪問看護経営コンサル 高齢者住宅給食事業FRECO |
| 従業員数 | 158名 |
| ホームページ | https://planb-shirayuri.com/ |
